クソみたいな話

「たまにうんこしたら涙出るときねぇ?」
「あっ、わかる! なんでだ? あれ?」
「海亀が卵産むとき泣くじゃん。あれじゃね?」
「おれたち亀なのか?」
「はは、亀よりは頭いいけどな」
「亀が聞いたら怒りますよ」
 最低の会話だ。くだらないのが高校生男子のデフォルトだといっても、これはひどい。
「で、花道、おまえテストどうだったの」
「今回は赤点がみっつしかねぇ。楽勝」
 得意げな表情で桜木はVサインを決めた。それを背後から三井が突っ込む。
「馬鹿かおめー。しか、ってなんだよ。普通はいっこもねーもんなんだよ」
「三井さんは? 前回よりはマシになりました?」
「なんだよ、ずいぶん上からじゃねーか。おめーこそどうなんだよ」
「俺? 俺は今回完璧っすよ。なんてったって俺には彩ちゃんがついてるからぁ~」
 宮城は首に巻いたスポーツタオルを握りしめてくねくねと身体をくねらせた。
「けっ、めでてーことだな。その単純さがうらやましいぜ。俺はおめーと違ってデリケートにできてっからなー」
「リョーチン、ミッチーはよっつだぞ。俺の勝ち」
「なっ……! おまえなんで知ってんだ!!」
「はっはっは。この天才には常人には使いこなせんミラクル情報網を持ってるからな。こないだ電車でうんこ我慢して駅のトイレに入ったら紙がなかったことも知ってるぞ」
 桜木は無駄に通る大きな声でロッカールーム中に暴露した。もちろんわざとである。他の部員は着替えの手を止め、小声で、うんこだって、紙なくてどうしたんだろう、とささやきあった。
「てめーぶっ殺す!」
「まあまあ、いいじゃないですか紙がなかったくらい。漏らしたわけじゃないんでしょ?」
「バカヤロウ! 漏らすわけねーだろ! ……おい、宮城。云っとくけどおまえ、変な風に尾ひれ付けて噂流すんじゃねーぞ」
「え? え? どういうことですか?」
 耳に手をあて、ニヤニヤしながら聞き返す。
「だから、おもしろさ優先で俺が漏らした話に変えたりすんなってことだよ!」
「ああ~なるほど。たしかにそれはおもしろいかも……」
「だからすんなっていってんだろ! したらマジでシメっからな」
「冗談ですよ~。そんなわざわざセンパイをおとしめるようなことするわけないじゃないですか」
「ならいいけどよ……」
 ただ、俺の口を離れてからどうなるかは知りませんけどね、と宮城は内心ほくそえんだ。
「そろそろ始めま~す」
 コートから晴子の声が飛んだ。脚をおっぴろげて椅子に座り、だらしなく腹をかいていた桜木が一瞬にして立ち上がる。
「はい! すぐいきます! そうだ、俺もまた晴子さんに勉強教えてもらおうっと~」
「うんうん。それが一番効果的だぞ、花道」
「さすがリョーチン! わかってるな! あ、練習前にちゃんとうんこ行っとけよ、ミッチー」」
「テメェだけはぜってー許さねぇ!」
 ありったけの殺意を込め、三井はロッカールームからコートの桜木めがけてボールを投げた。すると突然扉の左側から制服姿の赤木が現れて、ボールがその顔の右側面を直撃した。べこっと鈍い音を上げ、ボールはコートの端まで吹っ飛んだ。すべての時が止まった。
「なんでおまえがいんだよ……」
 赤木の後方から安西と木暮がやってきた。どうやら安西が二人を連れてきたらしい。
「やはり赤木くんがいると場が締まりますねぇ。ほっほっほ」
「いや、ちっ……違うんだ赤木! これは桜木が! 待て! 落ち着け! な? 話せばわかる!」


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