やっぱり沼桐が好き
今、充の脳裏に、随分前からたった一つだけ気がかりだったことが蘇っていた。それはずっと、大したことではないと思って、ずっと心の隅っこで起こりをかぶらせていたことだった。つまり、
彼は、桐山和雄の笑顔を一度も見たことがなかったのだ。
――BATTLE ROYALE(新書版) 101ページより
大したことです。(きっぱり) 二年も一緒にいる友だちの笑顔を一度も見たことがないなんて普通じゃないだろう。だけど、沼井なら、まあ、ありえるかもなー、と思わせるなにかがあいつにはある。性格ももちろんだけど、沼井は桐山を“対等な友人”と認識していなかったようには読めるから。
沼井にとって桐山は言葉通り〝ボス〟だったわけで、素直に読めばそこには、桐山:沼井=主:従の関係が成立していたのね。が、同時に沼井自身は、自分たちをトレーナーとボクサーの関係に例えている。ボクサーを育てるとき、決定権を持つのはトレーナーなので、主従で言うなら、トレーナーが主でボクサーが従の関係だろう。もし沼井が桐山に全ての指示を仰ぎそれに従うという図式なら単なる主従関係ということになるが、彼らは逆だった。沼井の指示決定に桐山が従っていた、ということになる。育てながら従ってたみたいな? うーん、ややこしい。
実際、プログラム以前に桐山が沼井にこうしろと指示を出したことはないように読めるので、もしそういう場面が訪れた場合、沼井がどうしたかは想像するしかないんだけど、あの南の端で「ゲームに乗る」としたことを、最初で最後の桐山から沼井に対する〝命令〟だったと捉えるのはまあありだと思う。だから沼井が早くあそこに着いていたらと思うんだよ。いつもみたいに沼井が決定していたらってねえ。桐山に決めさせるのはお前のポリシー的に違うだろ沼井、と。言いたい
早く言いたい。(RG)
でも、毎日べったりの友人関係でひとかけらも笑顔を見せない相手に〝大した〟疑問も抱かず付き合える沼井はある意味すごいと思う。もしかしたら、そういう相手と付き合うのに慣れてたのかな。親があんまり子供に興味ないタイプで、冷たくあしらわれることが当たり前だったとか。もしそうだったとしたら、桐山の「こういうのもおもしろいんじゃないか」という〝つぶやき〟も、沼井にとっては自分の提案を、ひいては、沼井自身を肯定する言葉に聞こえたのかもしれない。それがうれしくて、また新しいことを桐山に提案し、またそれを受け入れられる。それが沼井にとってなによりの喜びだったのかもしれない。
そこまで深読みすると、単なる主従関係だけでなく、得られなかった父親と息子の親子関係の再構築にも思えてくる。
単純馬鹿に見えて実は闇が深かったのか、沼井。
川田と三村もその切り口で取り上げられそうな気がするんだけど、いかんせん接点が少なすぎるのと、三村の場合はそこにもう一枚叔父というフィルターがかかってくるのでややこしさが沼井と桐山の比じゃないという。